Category
Archive
ラテン語・古典ギリシャ語単語の作り方 No.3
ラテン語・古典ギリシャ語単語の作り方 No.3
今回は、私たちに馴染みのあるラテン語・古典ギリシャ語単語をそれぞれ一つずつ中心に据え、その周辺の単語を眺めてみましょう。
両言語ともに初めての方でも読めるように、同時に、何年も学習されている人にも有益な情報にしたいと思っております。
※ギリシャ語はローマ字表記にしてありますので、ギリシャ文字に慣れていない人も読めます。
ーラテン語編 ー
amō (愛する)を中心に
私たちがラテン語で、いちばん最初に習う動詞はamōです。
「友達(男性)」のことをamīcusと言います。もちろんamōとの関連です。「友達(女性)」はamīcaです。
amicusもamicaも元々はamoの形容詞amīcus(愛おしい)を名詞的に使った用法です。
Amanda(アマンダ)さんという名前はラテン語の
動形容詞の女性形amanda(愛されるべき)から作られています。
フランスのマルグリット・デュラスの小説に‘L’amant (愛人)’というのがありました。
フランス語のamantはラテン語のamoに似ています。
フランス語の「友達」amiもamoに由来します。
ラテン語の「愛人;愛するもの」は、男性の場合にはamātor、女性の場合はamātrixです。
ラテン語amatorからは英語のamateur(愛好家)という単語が生まれます。
amābilisのように-bilisという接尾辞を加えると、「愛らしい」という形容詞ができます。
amabilisの副詞は、amābiliter(優しく)、名詞はamābilitās(愛すべきこと)となります
ラテン語のinimīcus(敵対する)という形容詞があります。この語の分析は、
[in (否定)+ amicus (愛おしい)]
となります。単純な足し算では
*inamicusとなるはずです。
しかしながら、音韻変化が起こりinimicusとなります。
ラテン語inimicusの英語バージョンは、inimical(敵対している)とenemy(敵)になります。
このグループでは、amoの母音 a が見えないので、直ぐにはamoの否定であることは見破れません。
ラテン語の形容詞inimīcusを副詞にするとinimīcē(敵意をもって)になります。
同様に、形容詞amīcusの副詞はamīcē(親切に)となります。
amoに接頭辞 ad を付加するとadamo(夢中になる)という語が作れます。
繰り返しを表す接頭辞 re を取り付けるとredamo(愛し返す)という語ができあがります。
reの後ろのdという子音には意味はありません。母音の衝突を防ぐ役割をしています。
ー 古典ギリシャ語編 ー
※ギリシャ文字とローマ字の対応表がある方は、ギリシャ文字に変換してみましょう。
Dikaiopolis(ディカイオポリス)を中心に
Dikaiopolisは、当教室で使用しているOxfordのテキスト
’Athenaze’に登場する主人公の名前です。
Dikaiopolisの分析は、
< [dikaio (正しい)+ polis (都市)]
となり、「正しい市民」くらいの意味です。
この名前は、’Athenaze book2’
の最終章で取り上げられるアリストパネス の戯曲『アカルナイの人々』に出てくる主人公の名前から取られています。
ギリシャ語のdikaios は、「正しい」という意味の形容詞です。
ギリシャ神話には、ゼウスとテミスの娘Dikē(ディケー)という「正義」の女神がいます。
dikēは名詞「正義」です。
dikaiosという形容詞を副詞にすると、dikaiōs(正しく)になります。
人を表す接尾辞を付け加えると、
dikastēs(裁判官)という単語ができます。
dikastērionとすると「裁判所」になります。
動詞はdikazō(裁判する)となります。
この接尾辞の-zōの箇所は、英単語のindustrializeやglobalizeの語尾に受け継がれています。
語根dikに、否定を表す接頭辞 a-を付加し、接尾辞iaを取り付けると、
adikia(不正)という名詞ができます。
[a + dik + ia]
「不正をなす」という動詞はadikeōとなります。
adikēmaとすると、「不正な行為」となります。
この接頭辞a-は、ラテン語やサンスクリット語にも存在します。
もちろん英語では、ギリシャ語由来の
atom(原子)<[a + tom(切る]
や
atheism(無神論)
<[a +the(神)+ism]などがあります。
〈ラテン語・ギリシャ語の名言〉No.2
辞書と文法書を活用して、意味と分析を行いましょう。
ラテン語編
3 vīta brevis, ars longa.
古典ギリシャ語編
4 ho bios brakus,hē de technē makrā.
前回の〈ラテン語・ギリシャ語の名言〉No.1 の解説
1 carpe diem. (カルぺ・ディエム)
carpeは、carpo「(花などを)摘む;もぎ取る」という第3活用の動詞の命令法、現在、二人称単数。意味は、「摘め」。
diemは、diēs「日」という意味の名詞で、第5変格の単数、対格。意味は、「日を」。
全体の直訳は、「日を摘め」となります。色々と脚色してみてください。
「ひとつの花を摘んで愛でるように、今日という1日を大切にせよ」くらいの意味だと思います。ローマの詩人ホラーティウスの言葉です。
2 panta rhei. (パンタ・レイ)
pantaは、形容詞pās「全ての」を名詞化した用法で、中性、主格、複数。「全てのものは」
rheiは、rheō「流れる」の三人称単数、現在形。複数の主語(panta)
を単数で受けています。
全体の直訳は、「全てのものは流れる」となります。「万物流転」
ヘラクレイトスの言葉のようですが、彼は特に本を書いたわけではないので、そのままの形では見当たらないそうです。
プラトン がヘラクレイトスの言葉として『クラチュロス』の中で紹介しているものとして、
panta chōrei kai
ouden menei.
(パンタ・コーレイ・ウーデン・メネイ)
というフレーズがあります。
「全てのものは動き、とどまるものはない。」
また、そのフレーズのすぐ後に、
dis es ton auton potamon ouk an embaiēs.
「同じ川に二度と足を踏み入れることはできない」
という言葉があります。
以上、ありがとうございます。
« 前のページ 次のページ »